戦略とは

戦略を言葉通りに解釈すれば「戦いの計略」である。経営における戦略についても、経営を一種の戦いと捉えればそのままの意味で通用する。

ただし、現代における経営戦略という言葉は定義が曖昧であり、それを指し示す範囲も拡大しているため、本来の「戦略」という意味合いは失われつつある。また、計画と戦略が同義語として扱われることもある。

このページでは、計画、戦略、経営戦略などの言葉の意味を見ていくが、人によってこの定義は異なるため注意が必要である。ここでは「軍事戦略」と「経営戦略」の「戦略」という言葉が共通のなにかを指しているという前提で話を進める。


辞典・事典における定義

「戦略」という言葉はもともと軍事用語であり、多くの辞典と事典においても軍事戦略の説明が最初にある。ある程度共通していることは「戦争を大局的・全局的に運用する方法」「戦術の上位概念」という記述である。続いて、政治・社会運動・企業競争においての説明があり、軍事戦略とほぼ同じ内容であるが、唯一広辞苑には「主要な敵とそれに対応すべき味方との配置を定めること」(『広辞苑 第七版』岩波書店)という敵と味方の位置関係についての記述がある。

一方で「経営戦略」は、辞典に載っているのは私が確認した限りでは広辞苑だけであり「外部に対して、企業が効果的に適応するための基本的な方針・方策。狭義には、経営ビジョンを実現するための方策。」(『広辞苑 第七版』岩波書店)となっている。いくつかの事典においても、言葉の意味としては広辞苑とほぼ同じであるが、ニッポニカには経営戦略という考え方が導入された経緯が以下のように載っている。

「(1950年代までは)経営目標―経営計画という体系が主であったが、環境の流動・多様化により、目標をただちに計画に展開することがしだいに困難になってきた。そのため、…(一部省略)…経営目標―経営戦略ー経営計画という体系が出現した。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館)

つまり、目標から直接計画を作ったとしても、環境の変化(流動)によってその計画は目標を達成できるものではなくなってしまうことと、目標を達成するための選択肢が増大(多様化)したため、どれが適しているのか判断が難しくなってきたということである。環境の変化には他の企業の行動も含まれているだろう。そのため、目標と計画の間に、外部環境の変化や他の企業が取り得る行動を予測し、大局的にみる概念が導入されたわけである。

これらをまとめると、経営戦略とは「外部環境に対して、企業が効果的に適応するための基本的な方針・方策」「組織などを大局的・全局的に運用する方法」となる。

計画と戦略の違い

戦略を定義する上で最も簡単な方法は、おそらく「計画」との違いを明らかにすることだろう。

戦略を「戦争を大局的・全局的に運用する方法」と捉えるならば、そこには必ず相手が存在することになる。ここに計画と戦略を分かつ大きな違いがあるように思える。

計画とは「ものごとを行うために、あらかじめその方法や手順を考えること」であり、戦略を少し具体的に表現すれば「現在の相手の行動や環境、あるいは未来の相手の行動や環境の変化を予測し、その状況や環境に対応したり適応したりするのに何をすればよいのかを考えること」である。つまり、計画は何をするのかがすでに決まっており、それを「どのように進めるのか」を記述するものであり、戦略は外部と内部の環境を考慮し、より良い結果が得られる方法を考えることに重点が置かれる。

戦略において、それをどのように進めるのかが重要になる場合には、計画との区別は曖昧になるが、戦略をもっと総合的なものとして捉えるならば、戦略の一部を構成する概念に計画が含まれるという考え方もできる。

おそらく、その組織の戦略を外部の人間が見ても計画と区別はつかないだろう。なぜなら結果としてでてくるものは計画だからである。戦略は「完成したもの」を指しているわけではなくその過程を指しているもの、あるいはいくつかの概念の集合だと考えれば、戦略と計画が同義語として扱われていることも説明できる。

経営学における経営戦略

「経営戦略」あるいは「企業戦略」と名のつく書籍の中で語られる経営戦略に限定すると、なぜかその定義は曖昧になる。人の数だけ定義があると言っても過言ではない。中には「目標や目的を達成するための方法」や「組織の中長期的な方針や計画」となっている場合もあり、計画の同義語として扱われたりしている。これは戦略の部分を表してはいるものの、最も重要な外部環境の存在が欠けている。

外部環境とは、業界の構造や慣行、制度、社会的・経済的・政治的な制約、他の企業の行動や消費者の行動など、企業組織の外の環境である。

さまざまな研究者による戦略の定義を包括するような定義を示したジェイ・バーニーでさえ「いかに競争に成功するか、ということに関して一企業が持つ理論」(ジェイ・B・バーニー 『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続』 岡田正大訳、 ダイヤモンド社、2003年、28頁)としている。つまり競争相手がいることを前提としている。

以上の結果を私なりにまとめると、経営戦略とは「外部環境を考慮し、その中で環境に適応する、あるいは環境に働きかけるための方針・方策」となる。

ただし、「環境に適応する」という表現は便利な言葉ではあるが、非常に曖昧であるため、もっと極端な表現をすれば「外部環境を考慮し、取り得る選択肢の中で、想定されるどのような環境の変化があったとしても、他の選択肢と比べ自分たちの利益が高くなる、あるいは期待値が最も高い選択をすること。またはそのプロセス。」となる。

これでもまた、疑問は出てくる。「利益は金額をそのまま用いるのか、あるいはなんらかの指標を用いるのか?」「短期的な利益なのか?長期的な利益なのか?」これらの疑問は「戦略におけるパフォーマンスとはなにか」という議論になるためここでは深く言及はしないが、一般的な概念としては、実際に創出された利益と期待された利益を比較することによって定義される。これは戦略を用いた場合とそうでない場合の利益の差ともいえる。

戦略と戦術

戦略論では戦略と戦術という2つの言葉がよく使われる。戦術とは、戦闘に勝つための方法や手段であり、戦略の下位概念である。

経営における戦略と戦術の区別には絶対的な指標というものはなく、戦略と戦術の関係性による相対的なものである。経営者の視点で見ると、企業全体に及ぶものは戦略となるが、部門ごとのものは戦略を実行するための戦術となる。しかし、部門の長から見れば部門ごとのものは戦略である。つまり、視点の違いによって戦略か戦術かは変わるのである。

このような関係性があるためか、経営戦略論においては企業戦略や事業戦略、製品戦略などの言葉が用いられるため、〇〇戦術という言葉はあまり出てこない。ただし、個人の具体的な行動を戦術と呼ぶ場合がある。

これらは一見すると言葉遊びのように感じられるかもしれないが、意外にも重要な事なのである。よく言われることであるが「戦術ばかりで、企業全体あるいは事業全体の戦略がない企業が多すぎる」のである。これは戦略と戦術の違いを理解していないことが要因のひとつではあるが、戦略と目標の違いを理解していないことが主な原因であると考えられる。目標と個人の行動である戦術だけで戦っており、組織として一貫した行動がとられていないのである。


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※『広辞苑 第七版』と『日本大百科全書(ニッポニカ)』及びその他の辞典・事典は、CASIO『EX-word XD-Z6500』を使用。

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