業界の変化

業界の構造分析は戦略策定に不可欠なものであるが、業界の構造はときとともに変化する。これは根本的な変化を伴いゲームのルールが変化することも多い。長期間同じ戦略のままで永続的な競争優位が得られることはあり得ないのである。

軍事戦略の場合は、相手を滅ぼすか降伏させるなどすればそのゲームは終了となり、次のゲームに向けて対戦相手や環境などを考慮して別の戦略を練るかあるいは同じ戦略をとるかということになるが、経営戦略の場合は明確な区切りをつけることは難しい。そのため業界の変化を一つの区切りとするのが望ましいわけだが、一日二日で業界の構造がすっかり変わってしまったという例はおそらくない(心理的にはあり得るが・・・)。大抵は技術の変化や顧客ニーズの変化を察知した企業が、組織構造や製品開発などの企業内の行動を変化させ、その製品が世に出ることによって業界の構造が徐々に変化するのである。変化の激しい新しい業界ではゲームのルールが変わってから戦略を立て直していては命取りになることもある。

製品ライフサイクル

業界の変化を予測する方法として古くから製品ライフサイクルという概念が使用されてきた。一般的な製品ライフサイクルは製品開発期を除く、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階からなる。

一般的な製品ライフサイクル

導入期は製品が市場に投入され、ゆっくりと売上が伸びていく期間である。製品の広告や市場投入に伴うコストが大きいので、利益はほとんど得られない。

成長期では製品が顧客に受け入れられ、急速に売上と利益が伸びていく。

成熟期は買い替え需要が中心となり、売上と利益の伸びは鈍化し、しだいに横ばいになるか減少に転じる。

衰退期では新しい代替製品の出現とともに、売上と利益は減少する。

製品ライフサイクルを変化の指標として用いることには様々な問題点が指摘されている。まず、各段階ごとの期間が業界あるいは製品によって大きく異なり、それだけでなくすべての製品が4段階すべてを経るわけではないことである。これは業界の特性だけではなく企業の行動によっても変わってくるため、いつ次の段階に進むのか予測が難しいのである。

製品ライフサイクルには特殊な型として、スタイル、ファッション、ファッドがある。ここではこれらを詳しく解説はしないが、製品がどのタイプのパターンをとるのかは衰退するまでわからないのである。

業界の進展過程

マイケル・ポーターは「競争の戦略」の中で、形こそ違ってもどんな業界にも以下のような予測可能な進展過程があるとしている。

成長の長期的変化

業界に変化をもたらす要因として最も一般的なものは、業界の成長率である。業界の成長率は競争度の強弱や事業規模の拡大率、新規参入を促す要因ともなる。業界の長期的成長率に影響を与える外的な要因は、買い手の人口統計特性、ニーズの動向、代替品や補完製品の相対的地位の変化あるいは製品自体の変化などが挙げられている。

買い手のセグメントの変化

コンピュータはもともと個人向けに作られたものではなかったし、個人がコンピュータを所有するメリットなどないと考えられていたが、マウスによる操作、ワープロや表計算などのソフトの充実、インターネットの普及などによって、個人向けのコンピュータであるパソコンは爆発的に売れ、コンピュータ業界は大きく変化した。

買い手セグメントの変化はこういった技術的な変化だけではなく、マーケティングのやり方によっても新たな買い手セグメントを開拓でき、これも業界の構造に変化をもたらすこともある。

買い手による学習

買い手は製品の購入を繰り返すうちに使い方や品質といった知識を身につけていき、製品に求められる性能も上がっていく。これは買い手が学習することによって求めるものが変化し、これによって業界の構造も変化することがある。

買い手の学習するスピードは製品あるいは買い手グループによって異なっている。買い手の製品への関心度が高い場合、学習スピードが速くなる傾向があり、製品差別化を持続させるためには製品の改良スピードも上げる必要がある。逆に学習スピードが遅い場合には、製品の改良スピードがそれほど速くなくても製品差別化が継続する可能性は高くなる。

買い手の学習は、買い手が注意を向けている部分で起こるため、広告の訴求方法などよって注意を向ける部分を変化させることで、学習を部分的に帳消しにすることもできる。

不確実性の減少

新しい業界において不確実性というのはつきものであるが、時間の経過とともに様々なデータが集まっていくため、それに伴って不確実性も減少していく。するとその業界で成功する方法が徐々に明らかになっていくため、新規参入企業を呼び込む働きをする。これだけでも業界の構造は徐々に変化していくわけだが、新規参入企業の中には新たな技術を携えて参入してくる企業もいるため、業界構造が一変することもある。

専有知識の拡散

新開発の製品や新技術は時間とともに拡散していく。それは供給業者から競争業者へと情報が伝わる場合や、新技術の知識を持っている技術者などが退職し、別の競争業者へ移動したり新たに会社を設立したりと、様々なネットワークによって拡散する。

拡散を防ぐために特許で保護することもできるが、その技術と同じ効果が得られる別の技術が開発されれば特許は無意味になってしまう。

このように大抵の専有知識というのは時間の経過とともに一般化された技術として拡散していき、業界の構造にも変化を与える。

エクスペリエンスの累積

経験が蓄積されるにつれて製品単位当たりのコストが減少していく業界があり、このような業界では追随する企業がコスト面で優位に立つことは難しい。その結果、差別化や集中化といったコスト以外の面で優位に立つ企業が現れたりして、業界の構造が変わることもある。また、新技術の導入によって経験曲線を無力化しようとする動きも出てくる。

規模の拡大・縮小

業界全体の規模が大きくなると通常はその業界の企業規模も拡大する。それに伴って規模の経済と資本の必要性を高める方向へ働きやすいため、業界の構造も変化してくる。

また、業界の規模がある程度大きくなると十分な売上が見込めるようになるため、大企業も参入してくることが多い。

インプットコスト・通貨コストの変化

どんな業界でも様々なインプットが必要で、それにかかるコストの変化は業界構造にも影響を与える。変化する可能性のあるインプットコストの中でも重要なものは以下の5つとなる。

為替レートの変動もこれらのインプットコストに影響を与える。

製品イノベーション

業界構造の変化が最もわかりやすいものとして技術上のイノベーションがある。従来の技術とは異なる方法で、従来の製品と同等あるいはそれ以上の品質や機能、コストパフォーマンスを実現できる場合である。こうなると新技術に移行せざるを得なくなり、従来の技術で培われた経験が無力化されることもあり、業界構造は一変する。

ただし、技術上のイノベーションが必ずしも製品自体のイノベーションとなるわけではないので、予測することは難しい。新技術というのは多くの場合、従来の方法よりもコストが高くなり、品質的にも問題を抱えている。これらは経験や技術の蓄積によって解決される場合もあれば、解決されずに埋もれてしまう場合もあるし、一度忘れ去られた技術が他の技術の発展によって、再び脚光を浴びてイノベーションを起こすこともある。また、買い手の機能的な部分のニーズによっても変わってくる。

マーケティングのイノベーション

マーケティングや流通チャネルのイノベーションも業界構造に影響を与える。広告の訴求方法や流通チャネルの追加や変更によって新たな顧客を獲得できる。

また、独自の流通チャネルを持つことによって低コストを実現できることもある。例えば、パソコンの製造販売を行っているデルは流通における中間業者を省き直販を行うことで、受注生産によって在庫を減らし低コストを実現している。

生産工程のイノベーション

生産工程のイノベーションは技術上のイノベーションと関連している部分もあるが、主に生産工程間の連結関係や生産方法におけるイノベーションで、製品自体に大きな変化は起こらない。例えば、コンピュータや自動工作機械の導入によって生産性や品質を上げることができる。近年では人工知能や3Dプリンターが様々な業界に大きな影響を及ぼすと予測されている。

関連業界の構造変化

業界の構造分析」でも示した通り、供給業者や買い手の交渉力も業界の構造を決める要因となっている。つまり、供給業者や買い手側の業界構造の変化が、自社の業界の変化にも影響を及ぼすことがある。

政府の政策変化

政府の政策によって業界構造が一変することもある。最もわかりやすいものが、法律によって参入や競争が規制されていたものが緩和されるときである。

また、品質や安全性などの規制も業界構造に影響を与える。資金の乏しい小規模企業の場合は研究やテストに費やすコストの割合が大きくなってしまうため、企業間の統合が進んだり、新規参入する企業にとっては障壁となることもある。

参入と撤退

企業が参入してくれば、当然業界構造にも影響を与える。特に豊富な技術や経営資源を持っている企業が参入する場合には、業界の構造が大きく変化することもある。見方を変えれば、業界が成長する可能性があるからこそ、このような企業が参入してくるともいえる。

逆に業界から撤退する企業が増えればリーダー企業の支配力が高まることになるから、こちらも業界の構造は変化する。

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