経営戦略論の分類

経営戦略論では多種多様な理論が溢れており、経営学を学ぼうとする者の理解を妨げているようにも見える。そんな背景もあってか、近年では各理論の重要な部分だけを一冊の本にまとめたものが増えてきている。経営戦略論の全体像を知るにはとても有効であるが、もともと400ページや500ページもあるものを数十ページに簡略化しているので抜け落ちる部分も当然あるし、原著者の考えとは異なる要約もたまにみられるので、そのことを考慮しなければならない(このサイトもまた然り・・・)。

それと平行して、戦略を分類することで全体像を理解しようとする試みもあり、それに関する書籍もいくつか出版されている。ここでは、その代表的な分類方法を取り上げたい。


組織階層による分類

経営学の入門書や教科書のような書籍でよく見られるのが事業戦略と企業戦略による分類である。これは組織階層毎に分類したものであり、事業戦略の下位階層には製品単位で決定される製品戦略などもある。ただし、製品戦略は対象範囲が異なるだけで事業戦略と類似している部分が多いため、あまり製品戦略という言葉は目にしない。

事業戦略とはその名の通り事業単位の戦略である。競合他社との競争がメインになるため競争戦略と呼ばれることもある。他社の事業との競争を優位に進めるための要因や、その優位性を持続するための方法などの内容となる。

企業戦略は企業全体の戦略であるため全社戦略とも呼ばれる。複数の事業を展開する多角化や、事業ごとの位置関係を管理する事業ポートフォリオ・マネジメント、企業構造、国際化、合併買収などの内容となる。

アプローチ方法による分類

研究方法、あるいは戦略作成を進める上でどの要因が重要になるのかという分類である。一般的には、ポジショニングアプローチと資源アプローチとに分類されることが多い。

ポジショニングアプローチでは、自社を取り囲む環境の中でどのような位置取りをするのか、あるいはどのような差別化を図るのかを論じている。つまり外部との関係性が優位性をもたらす要因であるとしている。代表的なものとしては、マイケル・ポーターの理論がある。

一方、資源アプローチでは、どのような経営資源や能力が優位性をもたらすのかを論じている。つまり組織の内部に優位性をもたらす要因があるとしている。代表的なものとしては、ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードの『コア・コンピタンス経営』やジェイ・バーニーのリソース・ベースト・ビューなどがある。

プロセスを含めたアプローチ方法による分類

近年では、これらの要因を形成するプロセスに着目した研究が活発化している。上で紹介した『コア・コンピタンス経営』の中でも、企業間の競争は4つのレベルがあり、それまでの「戦略論の教科書は、第四レベルのブランド・シェアをめぐる競争に注意の99%を向けている」(ゲイリー・ハメル、C・K・プラハラード 『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)』 一條和生訳、 日本経済新聞出版社、2001年、338頁)としており、第一レベルから第三レベルの形成プロセスにも着目している。

これらのプロセスも含めたものとして、個人的に分かりやすかったのは『競争戦略論 (一橋ビジネスレビューブックス) 第2版』(青島 矢一、加藤 俊彦 著)の中で描かれている4つのマトリクスである。ポジショニングアプローチ、資源アプローチに加え、ゲームアプローチと学習アプローチという分類を行なっている。ポジショニング・資源アプローチは競争優位をもたらす要因に着目しているのに対し、ゲーム・学習アプローチは競争優位を作り上げるプロセスに着目している。

戦略論の4つのアプローチ(『競争戦略論 (一橋ビジネスレビューブックス) 第2版』を基に作成)
注目する点
要因プロセス
利益の源泉ポジショニング・アプローチゲーム・アプローチ
資源アプローチ学習アプローチ

ポジショニングアプローチが与えられている外部環境でどのようなポジションをとるのかであるのに対し、ゲームアプローチは外部環境をどのようにつくり上げるのかを論じている。これらの考え方はどちらも経済学に起因しており、なかでも産業組織論やゲーム理論が基礎となっている。

資源アプローチと学習アプローチの関係性も同様に、与えられている資源をどのように活用するのかと、経営資源をどのようにつくり上げるのかという違いである。また、学習アプローチはどのような組織をつくるのかと類似するため、組織論的なアプローチともいえる。

戦略形成プロセスによる分類

戦略作成におけるもっとも網羅的な書籍として、ヘンリー・ミンツバーグらの『戦略サファリ』がある。

この書籍の中で使用されている「戦略」という言葉は、一般的な日本人が考えている戦略の領域を超えているかもしれない。また、その内容は経営学全般に及んでいる。

本書では戦略や戦略形成の分類がひとつではなく、いくつか示されている。

戦略

まず、戦略自体の内容は大きく分けて、計画的戦略と創発的戦略があるとしている。計画的戦略とは「完璧に実現されることを意図した戦略」であり、創発的戦略とは「行動の1つひとつが集積され、そのつど学習する過程で戦略の一貫性やパターンが形成される戦略」とされている。本書の中でも記述されているが、これら2つのうち、どちらか一方だけという戦略はない。どんなに綿密に計画したとしても、計画と実行、あるいは理想と現実には必ずズレが生じる。このズレの修正や、それを含む学習が創発的戦略というわけである。逆に、計画ゼロの企業については議論するまでもないだろう。

また、戦略を5つの「P」で分類している箇所もある。

戦略形成プロセス

戦略形成プロセスを10個のスクール(学派)に分類し、章ごとに分けられており、それがこの書籍の主な内容となっている。このページでは詳しく解説はしないが、どのようなものがあるのかだけ掲載する。

最後のコンフィギュレーション・スクールは、他のスクールの考え方を包含したものとなっており、組織の状態によってどの戦略形成プロセスが適応するのかが変わってくるというものである。また、ほとんどの組織はある種の安定したコンフィギュレーション状態として表現することができ、別のコンフィギュレーション状態へと移行するトランスフォーメーション・プロセスによって組織は大きく飛躍するとしている。

これらの10スクールは、現在の経営学の領域を網羅していると言っても過言ではない。したがって、研究者や学習者にとっては非常に有益であるわけだが、実務家が用いるには多すぎるかもしれない(もちろん、実務家のために書かれたものではないと思うが・・・)。そんなこともあってか、本書の第1章ではこれらのスクールを「戦略形成の4つの基本的アプローチ」としてまとめている。


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